素粒子物理学の標準理論(Standard Model)は、その理論自身で決定できないパラメータなどが数多くあり、不完全な理論である。より完全な理論的フレームワークの手がかりを得る事が重要である。平成24年度は、欧州CERN研究所での高エネルギーフロンティアのLHC加速器によりヒッグス粒子が発見され、素粒子物理学が活況を呈している。

しかし、LHCにおいて標準理論以外の新粒子は未だ発見されていない。より高いエネルギースケールでの新粒子のヒントを得るために、稀崩壊の探索がより注目を浴びるようになった。稀崩壊で新しい物理現象を探索する際に、CLFVのような標準理論では禁止されている物理過程を探すのが最善である。

COMET Phase-I実験の独創的な点は、パイオン捕獲システムを使って世界最高強度のミューオンビーム源を製作し、偶然背景事象(accidental background)に邪魔されないμ-e転換過程を高実験精度で探索することにある。パイオン捕獲システムとは、ソレノイド磁石の中心に置かれたパイオン生成標的に陽子ビームを照射し、発生したパイオンをソレノイド磁場下で大立体角で捕獲するシステムである。

この原理検証のため、平成20年度に大阪大学核物理研究センター(RCNP)に、パイオン捕獲システムを備えたMuSIC装置を実際に製作した(図4)。平成21年度以降のMuSICでの研究より、パイオン捕獲システムにより、ミューオン発生収集効率を約1000倍以上に改善できることを実験的に証明した。これより、多量のミューオンを発生しμ-e転換過程探索を飛躍的に向上することが可能となった。

本研究のCOMET Phase-Iでは、これまでの探索上限値を100倍以上に改善し、μ-e転換過程の発見を目指す。更に、10,000倍の実験改善を目標とする次段階のCOMET Phase-IIを推進する上で非常に重要なステップとなる。もしμ-e転換過程が観測されれば、疑いなく新しい物理の発見であり、それは素粒子物理学の新しいパラダイム転換を形成するきっかけとなる。

本研究のCOMET Phase-I実験はJ-PARC施設での実験である。しかし、KEKはそのための施設設備を提供・準備するが、実験装置については実験グループで予算を獲得し製作することになっている。本研究の緊急性は国際競争の観点から非常に高い。また、米国のFNALでのMu2e実験は米国エネルギー省(DOE)のCD-1採択を平成24年夏に受け、図3に示したように2020年頃の開始を目指しており、Mu2e実験との間で熾烈な国際競争を展開している。このMu2e実験に遅れをとらず、COMET実験を日本で早期に実現する必要がある。